東京地方裁判所 平成11年(ワ)4118号 判決 2000年5月09日
原告
千代田火災海上保険株式会社
被告
飯田昌弘
主文
一 被告は原告に対し、一四一三万〇七六五円及びこれに対する平成一一年三月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は原告に対し、三二七二万六一四八円及びこれに対する平成一一年三月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 信号機により交通整理の行われていない交差点において、自動車と自動二輪車の衝突事故があり、自動二輪車の同乗者が傷害を負い、重大な後遺障害が残った。本件は、傷害を負った同乗者に対して損害賠償金の支払をした自動車の任意保険会社が、自動二輪車の運転者に対して求償金の請求をした事案である。
なお、立証は、記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する。
二 争いのない事実等
1 本件事故の発生
(一) 日時 平成二年五月五日午後一一時一五分頃
(二) 場所 東京都台東区千束三丁目一八番五号先十字路交差点
(三) 事故車両
(1) 訴外梅田車 普通乗用自動車(足立五二ち八九八九)
運転者 訴外梅田義晃(本件事故当時の氏は「糸賀」、以下「訴外梅田」という。)
(2) 被告車 自動二輪車(一足立と一八二)
運転者 被告
同乗者 訴外高原勇一 (以下「訴外高原」という。)
(四) 事故態様
交通整理の行われていない十字路交差点(以下「本件交差点」という。)における直進自動二輪車(被告車)と直進四輪自動車(訴外梅田車)との出合い頭衝突。被告車の通行する通称、国際道路は優先道路で、幅員は約二四メートル、片側三車線(制限速度時速五〇キロメートル)であるのに対し、訴外梅田車の通行道路は約一〇メートルで、かつ訴外梅田車通行道路の本件交差点手前に一時停止の標識がある。訴外梅田車が、本件交差点手前で一時停止してから本件交差点に進入し、国際道路三車線の一番内側車線まで進行したとき、国際道路を訴外梅田車の右方向から本件交差点へ進入してきた被告車が、訴外梅田車の右側面に衝突したもの。
右衝突により、被告車の後部座席に同乗していた訴外高原は被告車と共に転倒して脳挫傷等の重篤な傷害を負った。
(五) 責任原因
(1) 訴外梅田の責任
訴外梅田は車両の運転に際し、交通整理の行われていない交差点へ進入する場合において、交差道路が優先道路であるときは、当該交差道路を進行する車両の進行を妨害してはならないにも拘らず、同人は本件交差点手前での一時停止はしたものの、交差道路を右方より本件交差点に進行してきた被告車の動静に対する十分な注意を払うことなく漫然と本件交差点に進入して被告車の進路を妨害した過失によって本件事故を惹起したものであるから、訴外梅田は民法第七〇九条及び自動車損害賠償保障法第三条に基づき、被告と連帯して訴外高原に生じた損害を賠償すべき責任がある。
(2) 被告の責任
被告は車両の運転に際し、交通整理の行われていない交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないにも拘らず、被告は交差道路を本件交差点に先に進入していた訴外梅田車の存在に十分な注意を払うことなく、漫然と本件交差点に進入して訴外梅田車と衝突した過失によって本件事故を惹起したものであるから、被告は民法七〇九条及び自動車損害賠償保障法第三条に基づき、訴外梅田と連帯して訴外高原に生じた損害を賠償すべき責任がある。
2 原告は平成元年七月一七日、訴外梅田との間で、訴外梅田車を被保険自動車として左記内容の対人保険を含む内容の自動車総合保険契約(PAP)を締結した(以下「本件保険契約」という。)。
(対人保険)
保険金額 無制限
保険期間 平成元年七月一七日から平成二年七月一七日まで
3 訴外高原を原告、訴外梅田及び本件被告を被告とする損害賠償請求訴訟
(一) 訴外高原は、平成八年六月五日、東京地方裁判所へ訴外梅田及び本件被告を被告とする損害賠償請求訴訟を提起し、同庁平成八年(ワ)第一〇四八七号事件(以下「前訴」という。)として係属した。
(二) 前訴は、平成九年一月二八日、前訴原告と前訴被告両名との間で左記和解条項(以下「前訴和解条項」という。)を主たる内容として訴訟上の和解が成立した。
(和解条項)
「一 被告らは、連帯して、原告に対し、本件交通事故に基づく損害賠償債務として、既払金のほか、金一億三八〇〇万円の支払義務があることを認める。
二 被告梅田義晃は、原告に対し、前項の金員を、平成九年二月末日限り、同被告が加入する訴外千代田火災海上保険株式会社(以下、「千代田火災」という。)を通じ、…略…原告代理人…略…名義の普通預金口座…略…に振り込む方法により支払う。
五 被告梅田義晃が第二項の支払を完了した後、被告飯田昌宏と訴外千代田火災は、訴外千代田火災の被告飯田昌宏に対する求償につき、別途協議することとする。」
4 保険金の支払と求償権の取得
原告は本件保険契約及び前訴和解条項に基づき、訴外高原に対し、平成九年二月二八日に和解金分として一億三八〇〇万円を支払った。
なお、原告は、右和解金の外に訴外高原に支払った金額が四七九五万三八二六円あり、これと右和解金分とを合わせた支払総額は一億八五九五万三八二六円となる。
但し、右金額の内、双方車両の自賠責保険からの支払分が各二三〇六万円、合計四六一二万円あるので、この合計四六一二万円を控除した残額一億三九八三万三八二六円の限度で、原告は商法第六六二条の規定に基づき、本件被告に対し、訴外高原が被告に対して有していた損害賠償請求権を保険代位により取得した。
三 争点(原告の訴外梅田と被告との過失割合の主張と求償額)
1 原告の主張
(一) 本件において、原告は訴外梅田と被告との過失割合に応じた求償金請求をなしているところ、原告は次のように、訴外梅田と被告との過失割合を七〇パーセント対三〇パーセントと主張している。すなわち、交通整理の行われていない十字路交差点における交差道路の直進の自動二輪車と直進の四輪自動車との出合い頭衝突事故で、被告車の通行道路が優先道路の場合であるから、過失の基本割合は、訴外梅田車が九〇パーセント、被告車が一〇パーセントと考えるべきであるところ、本件においては、劣後車である訴外梅田車の明らかな先入及び被告車に時速一五キロメートルを超たる速度違反という事情があることから訴外梅田車に有利に修正して、訴外梅田車が七〇パーセント、被告車が三〇パーセントとするのが相当である。
(二) したがって、本件事故における被告の負担額は、訴外高原に支払われた賠償金総額一億八五九五万三八二六円の三〇パーセントに相当する五五七八万六一四八円であるところ、被告車両の自賠責から支払われた二三〇六万円を控除した三二七二万六一四八円が、被告において支払をなすべき金額となる。
2 被告の主張
本件においては、訴外梅田には、右方の安全確認を怠ったという著しい過失があり、被告の過失割合は一〇パーセントを超えない。したがって、本件事故における被告の負担額は、訴外高原に支払われた賠償金総額一億八五九五万三八二六円の一〇パーセントに相当する一八五九万五三八二円であるところ、被告車の自賠責保険から既に二三〇六万円が支払われており、被告において支払をなすべき金額はない。
第三裁判所の判断
一 訴外梅田と被告との過失割合
1 本件において、被告車の走行する道路が優先道路であることは争いがなく、このことからすると、基本的にはそこに進入する訴外梅田は、被告車の走行を妨げてはならないのであるから、この義務に反した訴外梅田に本件事故の大きな過失があり、このことも両当事者間に争いのないところである。
2 ただ、甲第八号証によれば、本件事故の両車の衝突場所は、被告車両の走行車線が片側三車線であるところ、最もセンターライン側の車線であり、しかも、被告車は訴外梅田車の右側面の中央からやや後方部分に衝突している。このことからすると、訴外梅田車は、本件交差点に明らかに先に進入しているというべきであり、また、被告車の走行する道路は本件交差点まで、ほぼ直線であって見通しは良好であるから、被告においても、前方注視義務を果たしていれば、これを容易に発見することが可能であり、先入車を発見したのであれば、速度を調整する等の措置をとって衝突を回避する義務を負っているというべきであるから、このことは被告の過失を加重する要素となる。なお、本件道路は時速五〇キロメートルの速度規制がされているが、両車の衝突による損傷の状況からすると、被告車は、制限速度を時速一五キロメートルも超えるような速度では走行していなかったと認められる。
3 以上の事情を総合的に考察すると、被告に不利な事情はあるものの、優先道路を走行する被告に、それほど重い注意義務を課すことは相当でないので、被告と訴外梅田の過失割合は、二〇パーセント対八〇パーセントと解すべきである。なお、被告は、本件事故の刑事事件の捜査において訴外梅田の検察官に対しての供述を根拠に「重大な過失」があるとして、被告に一〇パーセント程度の過失しか認めるべきでないと主張している。しかしながら、交差点における事故においては、訴外梅田において右方の注視を怠ったからこそ発生するものであり、重大な過失とは、これに加重すべき著しいものが必要である。本件においては、夜間であることや本件道路が三車線であることを考えると、訴外梅田に、やや慎重さに欠けるきらいはあるが、訴外梅田の検察官に対する供述は、右方の注視を怠ったことを比較的率直に語っているに過ぎないもので、これを根拠として過失の重大性を認定することはできない。
二 求償額
したがって、本件事故における被告の負担額は、訴外高原に支払われた賠償金総額一億八五九五万三八二六円の二〇パーセントに相当する三七一九万〇七六五円であるところ、被告車両の自賠責から支払われた金二三〇六万円を控除した一四一三万〇七六五円が、被告において支払をなすべき金額となる。
第四結語
よって原告の請求は一四一三万〇七六五円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成一一年三月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用について民訴法六四条本文、六一条を、仮執行宣言について同法二五九条一項を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 馬場純夫)